千葉絵里の 「英語・コミュニケーション・通訳で幸せになろう!」ブログ

「言葉で人をつなぐ、心をつなぐ」コミュニケーター/リンギスト/英日会議通訳者/英語講師/コーチ/会議ファシリテーターのブログです。通訳者としての得意分野はプロフィールをご参照ください。

フリーランスの通訳者になる前に知っておきたかったこと

  1. ペアを組んで通訳するときの振る舞い方

 

現場に出て一番戸惑い困ったことがこちら。今は状況が異なっているかもしれないが、私がフリーランスで仕事を始めた頃は、通訳学校でもエージェントでも特に指導はなかったように思う。社内通訳者だった時のことを参考にして行動していたけれど、今考えてみると、特に交代の仕方などは自分が習った方法は余り一般的ではない部分があった。

 

色々な媒体ですでに広く取り上げられているトピックなのでおさらいになるけれど、自分が通訳をしていない時は相手の邪魔にならないのが基本。「存在感を消す」という言い方をされる方もいる。何が気になるかは人によって様々だが、メモを取っているのが気になる、という意見は複数の方から聞いた。私も実際に注意を受けたことがある。資料のページをめくる音が大きすぎる、と注意されたこともある。一瞬一瞬に全エネルギーを注いでいると、ちょっとしたことが気になるものだ。お互いに気を付けて力を出し切れるようにしたい。

 

パートナーとの連携の仕方についてはマイヤーズ若菜さんのこちらのコラムが詳しい。海外の通訳大学院ではこういうこともきちんと学ぶとのことで羨ましい。仕事を請けてから現場に向かい、実際に通訳業務を行うまでの流れについても詳しく解説されている。

 

メモ取りについては、平山敦子さんのコラムでも実例つきで触れられている。パートナーのためにメモを取って支援をすることも勿論あるけれど、自分が通訳している時とはかなり異なることが分かる。

 

  1. 仕事の準備の仕方

 

クライアントや通訳エージェントから提供される資料に目を通し、知らない単語や概念を調べて用語集を作って練習しておけばよいかというと、それだけでは済まないところが奥が深い。

 

読み原稿まできっちり作っておかないと、にっちもさっちもいかないことがある。はたまた、資料を読んで用語や概念を把握しておくだけでなく、関係者がどういうことを言いたいのかをその背景まで読み込み、自分の言葉で語れるくらいでないと、消化不良に終わってしまう仕事もある。

 

そもそも資料が膨大すぎて、限られた準備時間の中でどこを重点的に読むべきかの見当をつけるのさえ経験や勘が要る。また反対に、日時や場所、スピーカーのお名前以外に情報が全くない場合がある。そういう場合も、何とか調査能力を総動員して調べておかないと、出たとこ勝負では太刀打ちできないことが私の経験では多い。

 

また、専門性が高い分野では、資料以外に読むべき本が出てきたりする。

 

限られた時間の中で、いかに効率よく効果的に準備するか、優先順位をつけ実行する能力が必要で、しかも仕事の性質や分野により、異なる対応が必要になったりする。この点については、経験を通してある程度方針が明確になってきた分野もあるので、少しずつまとめていきたいと思う。

 

  1. 言語運用能力、通訳能力以外に様々な能力が必要であること

 

純粋な通訳能力、言語運用能力以外に必要なことの第一は危機対応能力だと思う。例えば、スピーカーの話すスピードが速すぎたり、言っていることが分からなかったりしたらどうするか。原稿とは違う話が始まったらどうするか。あるいは、パートナーが突然具合が悪くなったらどうするか、音声が聞こえなくなったらどうするか。突発事態は枚挙に暇ないほどある。これほどとっさの判断力と瞬発力が問われる仕事もないと思う。知識があれば切り抜けられることも多いので、通訳業務に直接関係がないのでは、と思う部分でも知識の積み上げが必要だと思う。特に、電子機器やソフトウェア・アプリケーションなどの知識があると、疲労や手間を軽減できることが多い。ただし、詳しい知識は必要ではなく、そういうものがあること自体を知っていることと、簡単な使い方を知っていれば十分だ。

 

  1. 自分のキャリアに関心を持ち、キャリア形成を自分以上に親身になって考えてくれる人はいないこと

 

会社に勤めていたとしても、皆がみな、自分のキャリアのあり方に関心を持ってくれる他者(上司、先輩など)に恵まれるとは限らない。けれども、フリーランスの通訳者の場合はそれが顕著だ。希望したからといって、依頼がこなければ仕事を請けることはできないので難しい部分はあるけれど、自分がどういう方向に向かっていきたいかは常に意識しておく必要がある。通訳以外の業界に友人やメンターを持つのもよいと思う。

 

  1. マクロ経済状況に左右されやすい仕事であること。また居住地を選ぶこと。

 

通訳という仕事は景気に左右されやすい。不況になると、企業が予算を絞り込み、社内人材で対応するというケースはよくある。依頼件数自体が減ってしまっている時期にデビューするのはなかなか困難だ。幸いにして、2017年の現在は、東京オリンピックに向け需要が盛り上がっている時期であると思う。しかし、英語を話せる人材は益々増えているし、最近のAIの発展によって、簡単な仕事はAIに取って替わられるだろうと予測されている。AIの時代になっても必要とされる通訳とはどういうものか、そういう時代に生き残れる通訳者になるためには何が必要か、動向把握に努める必要があるのではないかと個人的には思っている。

 

AIの時代になった時、通訳者のあり方はどう変わるだろうか? 「首都圏在住が競争優位になる」(白倉淳一さん、こちらのコラムを参照)状況に何か変化が生じるだろうか?通訳者自宅での電話会議の依頼が増えるなど、少しずつ首都圏在住でなくてもそれがハンデにならない条件が出現しつつあるようには思える。しかし、現在のところ、企業が本社を置く数が圧倒的に多い東京近辺で国際業務=通訳業務が発生しやすいのは確かだ。勿論、地方在住で活躍されている通訳者のことも存じ上げている。ただ、その方々も、ひと月のうち一定期間は首都圏に出て仕事をされていたり、講師や翻訳など他の仕事を組み合わせていたり、首都圏在住の通訳者以上に工夫をされているように思う。

 

  1. 経済的な余裕を持つためには、知識と備えが必要であること

 

フリーランスの通訳という仕事は、稼働日数によって収入が変動する。正月休みやゴールデンウィークなど、長い連休が挟まる非需要月には、稼働が3日か4日しかないことも私の場合は時々ある。最高は17日~18日程度。もっと入れようと思えば入れられるのだけれど、自分の感覚では月に15日を超えてくると準備に十分な時間が取れなくなり苦しくなってくる。スケジュールは限界まで詰め込まず、少しゆとりを持たせるようにしている。繁忙期にはなかなかそうも言っていられないが。

 

もう一つ注意しなければならないのは、仕事をしてから入金までのサイクルが長いこと。短くて1ヶ月~1.5ヶ月。2~3ヶ月かかることもよくある。幸い私はまだ経験がないが、支払が遅延したり払ってもらえなかったりすることもあるようだ。

 

上記のようなことを考え合わせると、ある程度の蓄えは必要だ。特に、通訳という仕事は自分が病気になったりすればたちまち収入の道が途絶えてしまう。だから、健康に気を遣うこと、誠実な仕事をして評判リスクを回避することは当然として、経済的にゆとりをもつための方法も具体的に研究実践する必要があると思っている。この点は、私は出遅れたので今でも苦労している。これからの通訳者さんは、そういうことで苦労が少ないといいなあと思っている。

 

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色々書いてきたけれど、あれこれと苦労はあっても、私は通訳という仕事がとても好きだし、教える仕事も大好きだ。自分なりに努力し工夫したことに対する反応が目の前で返ってくるというのはたまらない魅力だし、誰かの役に立てている、と感じられる時は本当にうれしい。そうではない時はとてつもなく落ち込むけれど・・・。時間の使い方を自分で決められるのも魅力。これも、自己管理や規律が必要なので難しい面があるけれど、自分にとって意味や意義があると感じられる時間で満たされた生活を送れることは、本当に幸せだと思っている。