千葉絵里の 「英語・コミュニケーション・通訳で幸せになろう!」ブログ

「言葉で人をつなぐ、心をつなぐ」コミュニケーター/リンギスト/英日会議通訳者/英語講師/コーチ/会議ファシリテーターのブログです。通訳者としての得意分野はプロフィールをご参照ください。

読書:アンジェラ・ダックワース『やり抜く力 人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』

昨年、教育や対人支援関係のコミュニティで大いに話題になっていた本。子どもの教育に関心のある人だけでなく、自分の能力を伸ばしたいと思っている大人にも大変参考になる内容だと思う。受講生にも折に触れて一読を薦めている。 

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 この本にはいくつか図が掲載されているが、中でもp.89の図はとても重要だ。上位にある究極の目標(筆者はこれを「コンパス」と呼んでいる)を達成するために複数の中位の目標があり、中位の目標の一つ一つを達成するために更に低位の目標が複数ある、というピラミッドのような図だ(例えば、この書評の図を参照)。

 

ピラミッドの一番下にある「低位の目標」は、もっとも具体的な個別の目標で、日々の「やることリスト」に書くような目先の目標。いずれも、「目標を達成するための手段」である。これに対し、ピラミッドの上に行くほど、もっと抽象的かつ全体的で重要な目標が並ぶ。上に行くほど、それじたいが目指すべき「目的」であり、たんなる「手段」ではなくなる(p.89-90より抜粋)。

 

低位・中位・上位の目標の例として、筆者は次の例を挙げている。

 

「朝8時までに家を出る」のは下位の目標で、「定時に出勤する」という中位の目標を達成するための手段にすぎない。

 

「なぜ定時に出勤するのか?」時間を厳守するため。

「なぜ時間を厳守するのか?」一緒に働く人たちに敬意を示すため。

「なぜそれが重要なのか?」よいリーダーになるため(p.90)。

 

 先日ご紹介した「なぜなぜ分析」は、この最上位の目標を確認するためのツールであるといえる。最上位の目標=究極の関心を確認するのがなぜ重要かというと、筆者によれば、やるべきこと・やらないことを明確にし、最重要の目標に対して時間とエネルギーをしっかり注ぎ込めるようになるためだ。

 

「目標」を複数列挙しようと思うと、中位の目標を書いてしまうらしいという筆者の感想は興味深い。普段意識に上りやすいのは「中位の目標」が多い、ということなのだろう。しかし、中位・下位の目標がしっかりと最上位の目標に資するものになっているかどうかが成功の鍵になるので、折に触れて自分の「最上位の目標」を確認することには意味がある。なお、「究極の関心」といっても、一つしか持ってはいけないということはない。実際、筆者の究極の関心は「娘たちにとってできる限り最高の母親になること」と「心理科学を利用して、子どもたちのしなやかな成長を助けること」。「究極の関心」どうしが対立することがあるため、二つの「究極の関心」を持ち続けることは生易しいことではないが、それが彼女の場合のようにどうしても譲れないものである場合は、「自分にとっていちばんよいと思う道を選ぶしかない」(p.93)。非常に現実的であるともいえる。

 

ここで重要なポイントは、「重要度の高い目標の場合は、安易に妥協するべきではない」(p.108)が、「重要度の低い目標をあきらめるのは悪いことではなく、必要な場合もある」(同前)。「最重要の目標に向かって粘り強く努力を続けるには、ピラミッドの下位の目標に関しては、臨機応変に態度を切り替える必要がある」(p.100)。ここで紹介されている、「ザ・ニューヨーカー」の漫画編集者、ボブ・マンコフの事例は興味深い。ボツの嵐にもめげず、即ち下位の目標の失敗にもかからわず、先行事例の研究と独自のスタイルの開発によって最上位の目標=「世界でトップレベルの漫画家になる」を達成するに至っている。究極的な関心を持ち続けること、それに従ってたゆみない努力を続けること、しかもむやみやたらな努力ではなく、より結果の出やすい方策を模索した上での努力を続けることの重要性を物語っている。

 

 

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 私にとって本書でもう一つ重要だと思ったポイントが「意図的な練習」だ。ただ漫然と努力するのではなく、「意図的な練習」を積み重ねなければ、高いレベルまで上達することは難しい。

最高レベルまで上達した「エキスパート」たちの練習方法には次のような特徴がある。

  1. ある一点に的を絞って、ストレッチ目標[高めの目標]を設定する。

このときエキスパートたちは、すでに特異なところをさらに伸ばすのではなく、具体的な弱点の克服に努める。あえて自分がまだ達成していない困難な目標を選ぶ

 

  1. しっかりと集中して、努力を惜しまずに、ストレッチ目標の達成を目指す。

エキスパートは、ひとりで練習する時間が長い。また、自分のパフォーマンスが終わると熱心にフィードバックを求め、否定的なフィードバックにしっかり対処する

 

  1. 改善すべき点がわかったあとは、うまくできるまで何度でも繰り返し練習する(171-174より抜粋)

 

 

そして、ストレッチ目標を達成したあとは、「新たなストレッチ目標を設定し、弱点の克服に努める」。「小さな弱点の克服をこつこつと積み重ねていくことが、驚異的な熟練の境地に至る道なのだ」(p.174)。

 

「高い期待」と「惜しみない支援」を組み合わせることで能力が伸びる、「ここをこうしたらさらによくなる」という提案とともに励ましの言葉を添えることで相手のやる気を高めることができる(pp.290-293)など、親や指導者にとって有益な情報も多い。自らの能力を伸ばすことに関心のある人、また能力開発支援に携わる人には必読書であると思う。