千葉絵里 オフィシャル・ブログ

「言葉で人をつなぐ、心をつなぐ」コミュニケーター/リンギスト/英日会議通訳者/英語講師/コーチ/会議ファシリテーターのブログです。通訳者としての得意分野はプロフィールをご参照ください。

通訳訓練でやってみてよかったこと9つ

通訳訓練を行っていく中で、また通訳者になる上でこれをやっていてよかったなと思うことを共有しておこうと思う。

 

1. 英日と日英の勉強を連続的なものとして捉えて勉強したこと。自分が担当しているクラスでもよく受講生に言うのだが、サイトラの訓練などで英語を読んでいるときも、はっとする言い回しに出会ったらメモをしておき、使える英文のストックを増やしていく。あるいは気に入ったスピーチなどは全部覚えてしまう。地道な作業だが、日英の表現力をつける上で役に立ったと思う。これは今でも続けている。

 

2. 先と重複するが、好きなスピーチの丸暗記。スピーカーの考え方、言い回し、言葉の選び方などを綿密に研究することができるし、文法も覚えられたりして一石二鳥。例えば、余りにも有名なSteve Jobsスタンフォード大学卒業式式辞にこういう表現がある。” If I had never dropped in on that single course in college, the Mac would have never had multiple typefaces or proportionally spaced fonts.”(あのクラスにもぐりで出席していなかったら、マックが複数の書体やプロポーショナル・フォントを持つことは決してなかっただろう)。これには仮定法過去完了という文法が使われているのだけれど、文法の教科書で覚えるよりもこういう例文で覚えたほうがすっと頭に入りやすい。

 

3. サイトラの訓練をするときは、必ず声を出して練習する。通訳学校訓練生時代、尊敬する先輩がこういう課題のときは必ず3回声に出して練習すると言っていたのでそれにならった。小さいことだが、声に出す出さないの差は大きいのだ。声に出してみると、どこで自分が訳出に躓いているのか、解釈しきれていないのかがより明確になる。スラッシュをどこに入れ、どう目を動かしていったらいいか、そのためにはどういう補助の線なりメモなりを入れればいいか等も工夫できる。更に発語の滑らかさ、語尾の乱れ、対応すべき言葉(「必ずしも~ない」など)の対応ができているかどうか等も明確になる。原文を誰かに読んでもらい(自分で録音してもよい)、原文を読み終わるまでにサイトラ/訳出を終えるような取り組みをすると、同時通訳へのベーシックな訓練になる。監査などでは、英訳のない日本語文書を大量にその場で訳出するような状況もあるので、このスキルは結構現場でも役に立つ(お客様所有の文書には書き込みはできないが)。

 

4.  NHKラジオ講座。これも、「使える英文のストックを増やす」の一環だけれど、特に「実践ビジネス英語」はビジネスの文脈で使える表現の宝庫で大好きだった。社内通訳者時代、「実践ビジネス英語」の表現を英日・日英とも訳出できるようになることと新聞記事のサイトラをよく行っていた。社内通訳をするための基礎訓練はこれでできたと思う。表現だけではなく、海外企業の最先端の状況や概念をいち早く紹介されていたのも有益だった。

 

5. 私は海外経験が殆どないので、ご他聞に漏れず日英に苦手意識があった。そこで、通訳学校訓練生時代の友人と割り勘でネイティブを雇い、日英通訳訓練に特化した勉強会をしていたことがある。友人が個人教授を受けていた方に頼み込んだ形だ。語学と科学技術の双方に精通した方だったので、サイエンス関係の記事を読んだり訳したりする勉強会になった。自分たちの訳出が英語としてどういう風に聞こえるかということと、内容そのものを英語で解説してもらえたのが非常にためになった。

 

6. 理科系に苦手意識を持たないように努めたこと。実際、現場に出てみると、科学技術関係の概念に触れない日はない。特にフリーになりたての頃にいただく仕事はそういうものが多い。通訳学校のカリキュラムも最近では少し変わってきているが、通訳学校でよく取り上げられる政治経済などの話題には最初は余り出くわさない(私は、いまだに余りない)。苦手意識を持つか持たないかは準備の効率にも関わってくるので、なるべく持たないことをお勧めしたい。お勧めとしては、苦手分野・知識が手薄な分野については初心者向けや子ども向けの書籍から読むこと。私は、ブルーバックスの『中学○○の教科書』、ナツメ社の図解雑学シリーズなどを愛読している。

 

7. 数の訓練。これも受講生の方によく言っているが、数は何の通訳をするにもつきまとうし、訓練すれば確実に上達する。訓練しない手はない。時々、「数が苦手なのでIRの通訳はやりません」という方にお会いすることがあるが、とても勿体ないと思う。IRは殆どの場合、エージェントから提供される資料も公開資料である。事業会社の名前さえ分かれば、自分で会社のウェブサイトから資料をダウンロードすることも可能であり、自分のペースで準備を進められる数少ない分野のひとつだ。マイペースで準備ができるということは、自分の生活の計画も立てやすい。こういう方には、ぜひ数に強くなってIRの通訳も行っていただければ、と思う。通訳学校では沢山の桁を練習するけれど、細かい数字が多い社内会議でも6桁の数を扱うことができればまず大抵の用は足りる。それ以上はどうメモをとるか、書いてあるものの変換スピードを上げるかの勝負になると思う。社内会議以外の場合は、4桁、多くて5桁扱えればまず大丈夫だ。

 

8.調べもののスキルを磨いたこと。これは分野によりどういうアプローチをしたらいいかかなり異なるので、いまだに試行錯誤している部分はある。ひとつ言えるのは、インターネットで調べられるのは「点」の知識であって、「面」ではないということ。インターネットは、ピンポイントの情報を得るには非常に有効だけれど、全体の傾向を把握したり、概念をつかんだりする上では余り有効でないように思う。そういうものは書籍が向いている。会社員時代、上司に「新しい分野に取り組むときは、10冊入門書を読めば、何を言っているのかぼんやりとでもつかめるようになる」と言われたことがある。時間の制約のある中準備するときはなかなかここまでできないが、新しい分野・不慣れな分野はなるべく本を読むようにしている。書籍や雑誌はインターネットに比べタイムラグがあるものの、情報がよく整理され、まとまっているものが多い。また、情報という点では、「人」からもたらされる情報も重要だ。確度が高いものが多いし、タイムラグが実はインターネットよりも少ない。お客様に専門用語や概念をご説明いただいたようなときは、必ずメモして覚えるようにしている。

 

9. かなり早い段階から、緊張感を克服する方策を探ってきたこと。自分はかなり緊張したり動揺したりしやすいタイプなので対処を迫られたに過ぎないが、対策を講じるにも時間のかかることなので早くから取り組んでいてよかったと思う。準備を十分にする、自分の能力とあまりにもかけ離れた仕事は請けないというのが根本的に重要ではあるのだけれど、現場では突発的な出来事は日常茶飯事だし、お腹に力を入れて何とか踏ん張ることが必要な場面も多い。そういうときに、呼吸法・自律訓練法・瞑想などに取り組んできたことが力になった。